マイコプラズマの話


「周囲でマイコプラズマが流行っている、と聞きましたが、マイコプラズマって、そもそも何なのですか?」

ちょっと変わった細菌、と言えばいいでしょうか。子どもの病気でおなじみの細菌には、のどの炎症を起こす溶連菌や、とびひなどを起こすブドウ球菌などがありますが、こうした一般的な細菌は、身体の一番外側に、「細胞壁」という殻を持っています。マイコプラズマには、この「細胞壁」がありません。普通の細菌に使われる主な抗生物質は、この「細胞壁」を壊して細菌を殺すのですが、細胞壁のないマイコプラズマには効果がありません。

といっても、まったく薬が効かないということではなく、効果のある抗生物質はあります。一般の細菌によく使われるペニシリン系やセフェム系の抗生物質は無効ですが、マクロライド系やテトラサイクリン系と呼ばれる抗生物質が有効です。

マイコプラズマは、ふだん元気な、比較的大きい子どもや成人の気管支炎や肺炎の原因として、わりと多く見られるものです。気管支炎や肺炎ですから、高い熱と激しい咳が典型的な症状です。咳がひどいわりには聴診しても胸の音がきれいなことが多く、またレントゲンではっきり影があっても、呼吸困難など全身に影響する激しい症状になることが珍しい、というのも特徴です。

もちろん症状が重くて入院になる場合もありますが、軽い場合には熱が低かったり、まったく熱が出ずに長びく咳だけ、ということもあります。気管支炎や肺炎でも外来で治療できることも多く、一般的には、わりに軽い病気と言ってよいと思います。

ただ、いくつかの問題があります。

ひとつは、人から人へうつりやすく、流行を起こしやすい、ということ。症状はあまり重くならないかわりにおおぜいがかかってしまう、ということです。今までも、数年ごとに流行がくりかえされてきました。

もうひとつの問題は、最近になって、マクロライド系の抗生物質に対して耐性を読んで持ったマイコプラズマが増えてきていることです。今まで効果のあった薬をつかっても、熱がなかなか下がらない、咳がよくならない、といったことがしばしば見られるようになってきました。テトラサイクリン系の、ミノマイシンという薬なら効果がありますが、この薬は歯に対する副作用があるので、子どもにはとても使いづらいのです。小学生くらいの年令になれば、やむをえず短期間使うことはありますが、小さい子どもの場合は難しい。もちろん、今でも、マイコプラズマを疑ったらマクロライド系の薬を最初に使うのは基本ですが、効果がなかった時にどうするか、が悩ましい。 他に使える薬がないわけではないのですが、「奥の手」としてとっておきたい薬を使わなければならないという状況は、かなり厄介です。

耐性菌が増えたのは、一言で言ってしまえば、マクロライド系の抗生物質が使いすぎになっていたから、ということになるでしょう。この系統の薬は、溶連菌にも効いていたのですが、かなり以前から耐性菌が増えていました。マイコプラズマや百日咳に対しては、今でも第一に選ぶ薬ですが、その他慢性の副鼻腔炎やお年寄りの慢性肺疾患にも広く使われてきました。子どもに対しては、ふつうの、ウイルス性の風邪や中耳炎には効かないにもかかわらず、「念のため」といって使われることも少なくありませんでした。そうした「濫用」の結果、マイコプラズマも耐性を持ってしまったと考えられます。無論、必要なときにはきっちりと使うべきなのですが、漫然と「熱があって心配だから抗生物質を」という使い方は慎まなければなりません。

これはマイコプラズマとマクロライドに限った話ではなく、風邪症状や発熱に対して即抗生物質を、という今でも根強い風潮を変えないと、もっと厄介な細菌でも、同じような問題が出てくる可能性は高く、自戒したいところです。
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