「かぜ」の話


「入園して1ヶ月、もう3回も熱を出してお休みしました。毎回『かぜでしょう』と言われるのですが。」

保育園や幼稚園といった、おおぜいの子どものいる集団に初めて入った時には、 とてもよく聞く話ですね。 短期間に何度も繰り返すと、心配になってくるものですが、 ほとんどは、 何かひとつの病気が治っていないということではなく、たてつづけにちがうかぜをもらってきているだけです。 特別身体の弱い子でなくても、こういうことは起きます。毎回ひどくなって入院騒ぎになる、というようなことでなければ、心配はいりません。夏を過ぎるころには、そんなに頻繁に熱を出すことはなくなるでしょう。


そもそも、「かぜ」とは何でしょう? かぜというと、せき・くしゃみ・はなみず、というのが定番の症状ですが、「熱だけのかぜ」というのもあります。吐いたり下痢したりする胃腸炎も、「おなかのかぜ」と呼ばれることがあります。

このように「かぜ」という言葉に厳密な定義はないのですが、 ある程度の枠組みはあります。多くの医師が同意するのは、「ウイルス性の上気道炎」、つまりウイルスによるはなやのどの軽い炎症(とそれにともなって起きる発熱・のどの痛み・はなみず・せきなどの症状)をかぜと呼ぶ、というあたりでしょう。この意味では、熱のないかぜもあれば、熱とせいぜいのどの痛みだけ、のかぜもあるわけです。

さらに、「はな・のどの炎症」というところに重点をおいて考えれば、溶連菌によるのどの炎症である溶連菌感染症を「細菌性のかぜ」と呼ぶこともできます。また、「ウイルスによる軽い病気で自然に治る」というところに重点をおけば、ウイルス性の胃腸炎も「おなかのかぜ」と呼ぶことができます。

また、ヘルパンギーナや手足口病、プール熱などは、夏に流行することが多いウイルス感染症なので、ひっくるめて「夏かぜ」と呼んだりしてきました(もっともこれらは最近は秋冬でも見られることが増え、「夏かぜ」という呼称はだんだんふさわしくなくなってきましたが)。このうち手足口病などは熱もせきはなもなくてぶつぶつだけ、ということがほとんどです。

一方、原因になるウイルスがはっきりして、よく知られるようになると、それぞれの名で呼ぶことが増えて、「かぜ」とひとくくりにしなくなる、という傾向はあります。嘔吐や下痢、腹痛といったおなかの症状をひきおこすウイルスとしてはロタウイルス、ノロウイルス、アデノウイルスなどが知られるようになり、集団感染が問題になることが多くなって、「おなかのかぜ」という言い方よりは「ウイルス性胃腸炎」とか「感染性胃腸炎」「ロタウイルス胃腸炎」などと呼ぶことが多くなりました。小さい子どものひどい咳やゼイゼイの原因になるRSウイルスもよく知られるようになり、迅速検査も普及したので、「かぜ」というより「RSウイルス感染症」と言われることのほうが多いでしょう。

そうはいっても、「かぜ」の症状をひきおこすウイルスは数多く、そのすべてについて検査することに実際の意味はありませんから、「かぜ」という呼び名がなくなることはないでしょう。

かぜはウイルスの感染ですから、抗生物質を飲んでも、早く治るわけでも早く熱が下がるわけでもありません。つらい症状が荒ればそれをやわらげる薬を使いつつ、自然に治るまで待つのが治療になります。
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